第41回社会保険労務士試験の択一試験問題解説 労働基準法及び労働安全衛生法 〔問 4〕

第41回社会保険労務士試験の択一試験問題解説 労働基準法及び労働安全衛生法 〔問 4〕

第41回社会保険労務士試験の択一試験問題解説

労働基準法及び労働安全衛生法

〔問 4〕
労働基準法に定める賃金等に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

A 賃金は通貨で支払わなければならず、労働協約に定めがある場合であっても、小切手や自社製品などの通貨以外のもので支払うことはできない。

B 賃金は直接労働者に支払わなければならず、労働者の委任を受けた弁護士に賃金を支払うことは労働基準法第24条違反となる。

C 労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合、譲渡人である労働者が債務者である使用者に確定日付のある証書によって通知した場合に限り、賃金債権の譲受人は使用者にその支払を求めることが許されるとするのが最高裁判所の判例である。

D 労働基準法第24条第1項の定めるいわゆる賃金全額払の原則は、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであり、使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇無効期間中に他の職に就いて得た利益を、使用者が支払うべき解雇無効期間中の賃金額から控除して支払うことはおよそ許されないとするのが最高裁判所の判例である。

E いわゆる年俸制で賃金が支払われる労働者についても、労働基準法第24条第2項のいわゆる毎月1回以上一定期日払の原則は適用されるため、使用者は、例えば年俸額(通常の賃金の年額)が600万円の労働者に対しては、毎月一定の期日を定めて1月50万円ずつ賃金を支払わなければならない。

皆様、こんにちは。今回の解説をはじめさせていただきます。

Aの問題文では「労働協約」という言葉が出てきましたね。ここで、社会保険労務士試験の受験生が「??どっちがどっち??」と悩むことの1つとして、「労働協約?」「労使協定?」「就業規則?」「労働基準法?」はいずれも使用者と労働者の間の関係をあらわすものだけれども、どう違うのだろう?正直なところ、違いが「あいまい」でわからない、という方もおられるようですね。次のようにイメージしてください。

1、労働協約は労働組合法を根拠とした、「使用者と労働組合との書面による協定」です。

2、就業規則は、労働基準法第89条を根拠に「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に対して作成義務を課しているものです。さきほどの、

第41回社会保険労務士試験の択一試験問題解説 労働基準法及び労働安全衛生法 〔問 3〕

の解説でもご紹介しているように、「就業規則」は、会社の中での「法律」のようなものだとイメージしてください。

3、労使協定は労働基準法を根拠とし、締結を要件に「労働基準法に違反しない」という免罰効果を生むものです。

4、労働契約は、個々の労働者が使用者と結ぶ契約です。1人1人の労働者が、大きな力を持つ使用者と対等の条件で話をすることは難しいと思います。具体的な例を挙げると、「えっ、この安い賃金の条件では働きたくないの?あっそう、いいよ、君に働いてもらわなくても。他にもこの賃金で働きたいという人はいるのだから。」「まってくださいよ。わかりました。私も、お金がほしいですから、その安い賃金で働かせていただきます。」というような、交渉が行われる可能性もありますね。だから、日本国憲法第28条の「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」という内容をうけて、労働基準法や労働組合法などで、弱い立場の労働者が助け合って、労働者たちの生活を守るために行動することが認められていますね。

5、労働基準法は使用者と労働者という関係では、「弱者=労働者」を徹底的に守る法律です。

以上の5つの力関係は

労働基準法>労働協約>就業規則>労働契約

となります。労使協定は単なる約束ごとですから、力関係としては影響しません。そして、「労使協定」は「この約束の内容にそった行動は労働基準法に違反しません。」というメ免罰効果を持つだけのものですから、実際に労働者に「労使協定を締結=こうしましょうねという約束」通りの内容の行動をしてもらうためには、会社内での法律のようなものである就業規則などに明記して、いつでも労働者側が確認できるようにしなければなりません。そうでないと、個々の労働者と使用者側の会話では、「これもやっといてくれよ。これでいいよな。」というように、約束以外のことを押しつけられたり、より劣悪な条件(賃金低下)などが平然と行われる可能性があるからです。労働者側が「えっ、ちがいまよ。ここにこう載ってありますよ。」と使用者側に反論するときの「根拠=証拠」として、いつでも明示できるように、労使協定の内容は就業規則などに明記する必要があります。

以上の解説を頭にイメージして問題文を見ていきましょうね。

Aの問題文の「労働協約」は就業規則よりも強い効力があります。会社内の法律のようなものより、強い効力があるものに定めがあるのですから、通貨以外の物で払うことはできますね。よってAは×(誤答肢)となります。ここで、なぜ、労働協約が就業規則よりも強い効力があるのかについての合理的な説明がほしい、という方に、次のイメージをお伝えします。就業規則は会社内の法律のようなものです。でも、内容は、使用者側が一方的に決めて良いものです。労働者側の意見を聞いてつくるのですが、反対意見をきいて「反対してもいいもんねぇ。」と作成しても良いのです。勝手に使用者側の一方的な都合だけで決めてもよいものです。それにたいして、労働協約は使用者側と労働者側の双方の合意がないと作成できません。こうなると、労働者の権利を守るために、労働者側の意見を十分に反映している「労働協約」の方が効力が上でないといけないなぁ、ということがイメージできると思います。おおもとの原則としては、労働基準法の「弱者=労働者」を徹底的に守るという考え方が背景にあるとイメージしてくださいね。

Bの問題文は、賃金の支払いに関する問題ですが、今一度賃金支払い5原則について再確認してみましょうね。①通貨払い②直接払い③全額払い④毎月1回以上払い⑤一定期日払い、の5原則でしたね。原則に対しては「例外」もありますが、基本は原則として「通貨で直接本人に全額を毎月決まった日に払う。」というイメージですね。もっと具体的に言えば、毎月25日に20万円の給料を本人に支払う、となりますね。本来は手渡しが原則なのですが、本人が希望する場合には、「銀行振込もOK」でしたね。ここで、今回のBの問題文は「直接払い」に関して、問いかけてきていますね。今回は委任を受けた弁護士ですから、もちろんダメですね。だから、Bは○(今回の〔問 4〕の解答)となります。ちなみに、ひっかけ問題として「使者」に渡すのはOKですよ。これは、厚生労働省のhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html

のURLには、

「直接払の原則は、中間搾取を排除し、労務の提供をなした労働者本人の手に賃金全額を帰属させるため、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止するものです。ただし、使者に対して賃金を支払うことは差し支えないものとされています(昭和63年3月14日付け基発第150号)。使者であるか否かを区別することは実際上困難な場合もありますが、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かによって判断することとなります。」というように紹介されていますね。

つまり「中間搾取」をすることが考えられないような、「家族などのお使い」は大丈夫ということになります。具体的な例をあげると、「お父さんが事故や病気で急に入院その他の理由で会社まで給料を取りに行けなくなったときに、子どもや妻が代わりに給料袋を会社まで行ってもらってくる。」というパターンが考えられますね。近所のスーパーで特売の玉子が1パック100円で売っているから買ってきてね、と言われたお使いをそのまま実行するだけの家族と同様の行動をする人のことが「使者」なのだというイメージで結構ですね。今回のBの弁護士などは、「自分で判断できる人」とみなされますので、中間搾取の可能性があるものとして、ダメだという扱いになるのが法律上の考え方です。

Cの問題文は、さきほどのBと同じ考え方ですね。「使者」以外のものには、絶対に賃金を渡してはいけませんね。だからCは×(誤答肢)となりますね。

Dの問題文は、むずかしいですよ。労働基準法の範囲を超えていますからね。では、ひとつひとつ一緒に考えていきましょうね。

今回のDの問題文に関しては、労働基準法には規定がありません。その場合には、労働基準法の上位法である「民法」の規定に従います。これは、解雇予告などで「民法には2週間前」で良いのに、「労働基準法に使用者側からの解雇は30日前」という規定があるから、「30日前」という規定が優先されるのと同じ考え方で、労働基準法に規定がないから、民法の規定を使います。民法第536条第2項には「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」とあります。
これを今回のDの問題文にあてはめると、労働者の解雇が無効であった場合、労働者は解雇期間中の賃金を使用者に請求できます(民法536条第2項)。もっとも、その労働者が解雇期間中、他の会社に勤めるなどして収入を得た場合には、それを使用者に償還しなければなりません(同項「この場合において、」以降)。そこで、中間収入の控除の問題が生じます。

もう少しわかりやすく言えば、解雇が無効ならば、その間の賃金(お金)をちょうだい、と労働者は使用者に言うことができますし、使用者は賃金(お金)を労働者に払わなくてはなりません。しかし、労働者が解雇無効と言うことは、もとの職場で働く必要があるのですが(労働の対価としての賃金のはずですから・・・)、他の職場で勝手に働いていたならば、その分のお金を相殺しますよ、というものです。単純に言えば、10万円の賃金を払うべき所、たの職場で4万円をもらっていたならば、さしひき6万円を使用者は労働者に払えばよいことになります。どっちにしろ、労働者が本来の10万円をもらうという結果になればよいのですから・・・。

これが今回のDの問題文の本来の趣旨です。ですから、Dは×(誤答肢)となりますね。

そして、発展解説として、もうすこし細かく言いますと、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」という労働基準法第26条の最低保障(休業手当)がありますので、労働者が他で働いていて収入を得ていても、6割の賃金の保障はあります。

具体的に言えば、本来10万円の平均賃金があるときに他で働いて得た収入が5万円の場合は、使用者が払う賃金は10-5=5万円ではなく、最低保障の6割つまり6万円となるのです。

実は、今回のDの問題文は「あけぼのタクシー事件」という昭和62年4月2日の最高裁判所判例を問題にしたものです。とても難しい問題です。

簡単なイメージとして、「6割保障」というイメージで覚えておいて下さいね。

以上の内容は、当ブログで、

第42回社会保険労務士試験択一試験の労働基準法〔問 2〕

のBの解説でくわしくご説明してありますので、この部分を勉強された人は、「もうわかっているよ。」という状態ではないか、と思っています。

Eの問題文は、「ひっかけ問題」ですね。毎月1回払いが原則ですから、「50万円×12箇月=600万円でも良いです。」または、「10万円、20万円、30万円、40万円、50万円、60万円、70万円、80万円、90万円、100万円、25万円、25万円」という毎月払いで600万円でもかまいません。毎月払いが大切なのであって、定額払いが大切なのではありません。定額払いを「強制」したら、「昇給」がダメなことになりますからね。よってEは×(誤答肢)となります。

結論として今回の〔問 4〕の解答は「B」となります。

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